2021年4月から戸建ての新築住宅において、建築士から建築主に対する建物の省エネ性に関する説明義務が始まります。
ざっくりいうと、建物の断熱性と一次エネルギー消費量が省エネ基準に適合しているかどうか説明するというものですが、その判定方法は、大別すると「仕様基準」と「性能基準」の2つの方法があり、「性能基準」には、さらに「詳細計算法」、「簡易計算法(木造戸建てのみ)」、「モデル住宅法」の3つが設定されています。つまり計4つの判定方法があり、どの方法を用いてもOKという内容になっています。
今回は、その中で「詳細計算法」という最も難しい方法について断熱性の評価方法だけですが解説します。
詳細計算法
詳細計算法は、建物毎に外皮の断熱仕様と面積からUA値やηAC値を求め、それらを使って一次エネルギー消費量を算定する方法です。慣れてくると30分程度で算出できる方法ですが、初めて計算をやる方にとっては少しハードルが高いかもしれません。
おおまかな手順としては、①断熱部位の確認、②部位ごとの熱貫流率U値の算出、③部位ごとの面積算出、④部位ごとの貫流熱損失量を算出、⑤UA値の算出となります。以下に各手順を解説します。
①断熱部位の確認
木造戸建住宅には、充填断熱や外張断熱、床断熱や基礎断熱など断熱の方法が様々あります。計算の対象は、あくまで断熱された外皮ですので、まずどこが断熱部位なのか確認します。
図1 断熱部位の例
②部位ごとの熱貫流率U値の算出
次に、部位ごとの断熱仕様を確認し、熱貫流率U値を算出します。
U値は、部位の熱抵抗Rの逆数、つまりU=1/Rで表されます。
熱抵抗Rは、層構成された材料の厚さ÷熱伝導率で表され、壁体表面に存在する空気層もいくらかの熱抵抗をもっていますので、その分も考慮して次のように求めます。
図2における壁体の熱抵抗R=室内側表面空気の熱抵抗+材料Aの熱抵抗+材料Bの熱抵抗+材料Cの熱抵抗+外気表面空気の熱抵抗
ここで、各材料の熱抵抗は 材料厚さ[m]÷各材料の熱伝導率[W/mK] で求められ、室内側・外気側の表面空気の熱抵抗は各部位に応じて表1の値となります。
図2 熱抵抗算出のイメージ
表1 表面空気層の熱抵抗
住宅の部位 | 室内側表面空気層の熱抵抗 | 外気側表面空気層の熱抵抗 | |
外気以外の場合 | 外気の場合 | ||
屋根 | 0.09 | 0.09(通気層) | 0.04 |
天井 | 0.09 | 0.09(小屋裏) | ― |
外壁 | 0.11 | 0.11(通気層) | 0.04 |
床 | 0.15 | 0.15(床下) | 0.04 |
算出された熱抵抗Rの逆数がU値ですので、上記に従えば図1の壁体の熱貫流率は容易に計算することができます。
ただし、木造住宅の場合、図3のように断熱材の入っている部分と柱等の木部(木熱橋)は熱貫流率が異なるため、それぞれの熱貫流率を求めたあと、面積比率から実質熱貫流率を求める必要があります。
各部位の熱橋面積比率は表2の通り。
図3 木熱橋のイメージ
表2 木造軸組工法の部位別熱橋面積比率
部位 | 工法の種類等 | 熱橋面積比率 |
床 | 根太間断熱 | 0.20 |
大引間断熱 | 0.15 | |
外壁 | 柱・間柱間断熱 | 0.17 |
天井 | 天井吹込断熱 | 0 |
桁・梁間断熱 | 0.13 | |
屋根 | 垂木間断熱 | 0.14 |
算出例)図4の外壁の実質熱貫流率を求めてみましょう。
図4 外壁の仕様例
まず、断熱部と熱橋部のそれぞれの熱貫流率を求めます。ただし、通気層を有する壁体の場合は、通気層自体を外気として扱いますので外装材の熱抵抗は加味しません。
断熱部の熱貫流率
せっこうボード12.5㎜:0.0125m÷0.22W/mK=0.057㎡K/W
GW16K 105㎜:0.105m÷0.045W/mK=2.333㎡K/W
構造用合板12㎜:0.012m÷0.16W/mK=0.075㎡K/W
室内側表面空気層の熱抵抗:0.11㎡K/W
外気側表面空気層の熱抵抗:0.11㎡K/W
熱抵抗の合計=0.057+2.333+0.075+0.11+0.11=2.685㎡K/W
断熱部の熱貫流率=1/熱抵抗の合計=1/2.685=0.372W/㎡K
熱橋部の熱貫流率
せっこうボード12.5㎜:0.0125m÷0.22W/mK=0.057㎡K/W
柱・間柱等105㎜:0.105m÷0.12W/mK=0.875㎡K/W
構造用合板12㎜:0.012m÷0.16W/mK=0.075㎡K/W
室内側表面空気層の熱抵抗:0.11㎡K/W
外気側表面空気層の熱抵抗:0.11㎡K/W
熱抵抗の合計=0.057+0.875+0.075+0.11+0.11=1.227㎡K/W
熱橋部の熱貫流率=1/熱抵抗の合計=1/1.227=0.815W/㎡K
次に熱橋面積比率を用いて実質熱貫流率を求めます。
実質熱貫流率=0.372W/㎡K×0.83+0.815W/㎡K×0.17=0.447W/㎡K
以上の手順で各部位ごとの熱貫流率を算出します。窓等の開口部は建具の材質とガラスの種類に応じて表3の値を熱貫流率とします。
表3 窓の熱貫流率の例
建具の仕様 | ガラスの仕様 | 中空層の仕様 | 熱貫流率W/㎡K |
木製または樹脂製 | ダブルLow-Eトリプルガラス | ガス入り7㎜以上 | 1.60 |
Low-Eペアガラス | ガス入り12㎜以上 | 1.90 | |
Low-Eペアガラス | ガス無し10㎜以上 | 2.33 | |
アルミ製 | Low-Eペアガラス | ガス無し10㎜以上 | 3.49 |
③部位ごとの面積算出
次に部位ごとの面積算定を行います。計算者により結果が大きく異なると基準とはいえなくなってしまいますので、一応算定ルールが設けられています。
●屋根、天井、床等の水平部位は、柱芯による。ただし、屋根は勾配を加味した実面積とする。
●窓、玄関ドアは、呼称寸法、サッシ寸法どちらでもOK。
●外壁面積は、芯芯での外周長さ×外壁高さ から開口部(窓・ドア)面積を引いたもの。外壁高さは図5参照。
図5 外壁高さの拾い方(床断熱の場合)
④部位ごとの貫流熱損失量の算出
部位ごとの熱貫流率U値とそれぞれの面積が算出されれば、部位に応じて温度差係数というものをかけ、部位ごとの貫流熱損失を算出します。温度差係数に関しては図6参照。
図6 温度差係数
部位の貫流熱損失量[W/K]=部位面積[㎡]×熱貫流率U値[W/㎡K]×温度差係数[-] |
上記の計算式で、部位ごとの貫流熱損失量が算出されたら、それらを合計し、部位面積の合計で割り算すると外皮平均熱貫流率UA値が算出されます。
以上、詳細計算法のざっくりとした中身について解説しました。より詳しい内容については基準の解説書等を参照頂ければと思いますが、何物件か試算してみるとすぐにマスターできると思います。